『メフィスト賞』受賞作
一口内容紹介&一口感想

 
《内容紹介》は講談社ノベルスに書いてあるものですが、
長いのは削ったりしてます。短いのは付け足してあります。
なお、講談社ノベルスに書いてない場合は、ファンページ等
から、引っこ抜いてきたりしてます。

 あと、大体の感想は、一読した後、すぐに書いてます。
そして、その後、訂正をしてません。
今読むと、的はずれな感想もありますが、ご容赦を。
(でも、『六とん』への感想は、今でも全く変わらない。)
 

……にしても、今はそれぞれ一作目の感想しか
書いてないのだが、二作目以降でがらっと感想が
変わる人もけっこういるから、それも書くべきなのかなぁ……


 

『すべてがFになる
  The Perfect Insider
(森博嗣)

《内容紹介》
 十四才の時、両親殺害の罪に問われ、外界との交流を拒んで孤島の研究室に閉じこもった天才工学博士、真賀田四季。教え子の西之園萌絵とともに、島を訪ねたN大学工学部助教授、犀川創平は一週間、外部との行進を断っていた博士の部屋に入ろうとした。その瞬間、進み出てきたのは、ウェディングドレスを着た女の死体。そして、部屋に残されていたコンピュータのディスプレイに記されていたのは「全てがFになる」という意味不明の言葉だった。
 
《一口感想》
 メフィスト賞を無事軌道に乗せ、さらには、『理系ミステリ』の先駆けとなったこの作品。舞台が、というよりは、構築のされ方と言葉の選び方、そして、曖昧さを許さない、冷徹な目が『理系』なのですな。しびれます。
 
『コズミック
  世紀末探偵神話』
(清涼院流水)

《内容紹介》
 『今年、一二〇〇個の密室で、一二〇〇人が殺される。誰にも止める事はできない。』〜『密室卿』を名乗る謎の人物からの手紙。
 一二〇〇年の間解かれる事のなかった密室の謎を知っている、と豪語する『密室卿』の手によって、全国で不可解な密室殺人事件が続発する。密室で首を斬られ、被害者自身の血で『密室』という字が書かれている被害者達。
 未曾有のスケールを持つこの密室連続殺人に、警察はおろか、名探偵集団『JDC』の捜査も通用しない……

 同じ頃。海を隔てたイギリスでは、『切り裂きジャック』の後継者を自認するものによって、連続切り裂き事件が起きていた。JDCきっての天才、九十九十九は、日英二つの事件は同一の根を有する、と看破する。名探偵を越える『メタ探偵』、九十九十九はこの事件を解けるのか……
 
《一口感想》
 賛否両論色々あろうが、あえて言い切ろう。
『コズミックは、最高のエンターテインメント作品だ!』…ん?ミステリじゃないのかって?だって、『メフィスト賞』はエンターテインメント作品に送られる賞だからいいんだもん。
 
 この作品が旧世紀を跡形もなく破壊するための大きな流れになった事は間違いないでしょう。

 

『六枚のとんかつ』
(蘇部健一)
《内容紹介》
 保険調査員小野由一とその友人で新進推理作家である、古藤が出くわした様々な謎の数々。大笑いか激怒か!決して読むものの妥協を許さない、超絶アホバカ・ミステリの決定版がここに誕生!そこに待つのは抱腹絶倒の結末か、それともこの本が床に叩き付けられる結末なのか……
 
《一口感想》
 ……叩き付けました。以上。
 

『Jの神話』
(乾くるみ)
《内容紹介》
 全寮制の名門女子高の生徒が子宮から大量出血して死に、いたはずの胎児が消えた。同じように変死した卒業生の姉、謎の言葉『ジャック』を遺し、塔から身を投げた少女―桜の園に封印されたおぞましい記憶!陰惨な檻と化した学園で、女探偵《黒猫》と一年生の優子に魔手が迫る。女に棲む“闇”を怪しく描く衝撃作!
 
《一口感想》
 実は、そんなに嫌いじゃないです。エログロ的な描写がざくざく出てくるのと、衝撃のラストで駄目の烙印を押す人も多いんだろうけど、許容範囲が広いもんで。(広くなきゃ、メフィスト賞は読めない。)まあ、こんなある意味『ポルノ小説』といっても過言ではない作品が受賞しちゃうのが『メフィスト賞』ですな。
 

『記憶の果て
 THE END OF MEMORY
(浦賀和宏)

《内容紹介》
 亡き父の書斎に入った安藤直樹は、奇妙なコンピュータを発見する。電源を入れたとたん、モニター上に自己紹介が流れ出した。このパソコンは『何者』なのか?
 ミステリだとかSFだとかのジャンルをあっさり超越した、若き才能が新たな歴史を作る!
 
《一口感想》
 実は、そんなに好きじゃないです(笑)なんかラストが気に喰わなかったのと、『古き良き青春グラフティ』的な部分が鼻について。まあ、2作目でがらっと評価がかわるんですが、それはまた、別の話。
 

『歪んだ創世記』
(積木鏡介)

《内容紹介》
 全ては何の脈絡もなく唐突に始まった。過去の記憶を全て奪われ、身死らぬ部屋で覚醒した男女。
 舞台は絶海の孤島。三人の惨殺死体。生存者は私と女、そして彼女を狙う正体不明の殺人鬼だけ……のはずだったのに。この島では私達が創造もつかない『何か』が起こっていたのだ……
 
《一口感想》
 《内容紹介》を意図的に大分カットしました。正直、これでも『ネタばれ』しちゃってるなぁ、と思ってる位です。
 
 で、『メフィスト賞』受賞作で最も好きな作品がこれ。
 もう、読んで下さい、としか言えません。この作品には『あらゆるもの』が詰め込まれています。凄いです。
 あ、でもダメな人は全くダメだと思うですよ。ある意味『メフィスト賞についていくかどうかの踏み絵』。
 

『血塗られた神話』
(新堂冬樹)

《内容紹介》
 かつて『悪魔』と恐れられた、街金融の若き経営者・野田秋人のまわりで、関係者が惨殺されていく。『金』の世界は、人を死に追いやる事すらある修羅場だ。
 怨みが渦巻き、一瞬の隙が己を破滅に導く。常軌を逸した猟奇殺人は、はたして野田への復讐なのか?街金融の現場を生きた著者が渾身の筆致で描く問題作。
 
《一口感想》
 発表の場が『メフィスト賞』じゃなくてもいい作品。全てが余りにも典型的。期待通り、っちゃあ、そうなんだけどなぁ。きっと、『典型的ハードボイルド』が好きな人はうれしいであろう、作品です。
 

『ダブ(エ)ストン街道』

(浅暮三文)
《内容紹介》
 あの、すみません。ちょっと道をお尋ねしたいんですが。ダブ(エ)ストンって、どっちですか?実は恋人が迷い込んじゃって…。
 世界中の図書館で調べても、よく分からないんです。どうも謎の土地らしくて。彼女、ひどい夢遊病だから、早くなんとかしないと。え?この本に書いてある?!あ、申し遅れました、私、ケンといいます。後の詳しい事情は本を読んどいてください。それじゃ、サンキュ、グラッチェ、謝々。「今、行くよ、タニヤ!」
 キッチュでポップな迷宮譚。第8回メフィスト賞受賞。 
 
《一口感想》
 『好き』です。読んでて心地いい。ファンタジー的な世界のいい感じの柔らかさに包み込まれてしまいました。よかよか。
 

『QED 百人一首の呪

(高田崇史)

《内容紹介》
 希代の天才・藤原定家が残した百人一首。その一枚を握りしめて、会社社長は惨殺された。残された札はダイイング・メッセージなのか?関係者のアリバイは証明され、事件は不可能犯罪の様相を呈す。だが、百人一首に封印された華麗なる謎が解けたとき、事件は、戦慄の真相を地上に表す!
 
《一口感想》
 『メフィスト賞』受賞作の特徴として、『殺人事件そっちのけ。』というのがあります。そう言う意味では、この作品はその典型。『百人一首の謎』を解決する為に他のあらゆる部分を犠牲にしております。というか、百人一首の謎を解決する話です。鯨統一郎の『邪馬台国はどこですか?』みたいなものです。まあ、『邪馬台国』ほどは、はまれませんでしたが。
 

『Kの流儀 
 フルコンタクト・ゲーム
(中島望)

《内容紹介》
 悪の華が咲き乱れる荒廃しきった高校へ転校した少年、逢川総二はあの『極真』の達人だった!
 VS.中国拳法、ボクシング、少林寺拳法、柔道、空手、剣道。激闘は限界を越えて加速する。血と力のアジテーター、梶原一騎の再来か?
 
《一口感想》
 『メフィスト賞』迷走期の最たるもの。(この作品をけなしてるわけではないので、念のため。)たぶん、編集者はこの作品の『極真ってすげーんだよ!!!!』
という勢いに負けたんだと思う。Kの一念岩をも通す。
 作品自体も、もう異種格闘シーンが書きたくて仕方がない感じ。背景とか、割とふっとばし。でも、それが、逆に清清しくて笑えます。(笑っていいのか?)
 

『銀の檻を溶かして
  薬屋探偵妖綺談
(高里椎奈)
《内容紹介》
 賑やかな街の一角に、その店は存在する。燻べたような色の木の板、木の壁、木の天井。丸で底だけ時に取り残されたかのような−その店。蒼然たる看板に大書きされた屋号は『深山木薬店』。優し気な青年と、棲んだ美貌の少年と、元気な男の子の三人が営む薬種店は、だが、極めて特殊な『探偵事務所』で…!?
 
《一口感想》
 なんつうか、印象が薄いんですよね。これ。
まあ、端から『ショタ』や『キャラもの』を目指してる(作者が、ではなく、これを推した編集者が)のだから、男が読んでもしょうがないのかな。これに関してはパスです。女性の意見をまっております。ペコン。
 

『ドッペルゲンガー宮
  『あかずの扉』研究会 流氷館へ
(霧舎巧)

《内容紹介》
 ゴシック様式の尖塔が天空を貫き屹立する、流氷館。いわくつきのこの館を学生サークル《あかずの扉》研究会のメンバー6人が訪れたとき、満点驚異の現象と共に悲劇は発動した!
 
《一口感想》
 本格だ!本格だ!これでもかという、本格だ!もちろん、島田荘司推薦だ!いやぁ、痺れますね。(ほめてません、念のため。)学生サークル、謎の館、館にはつきものの、物理トリック。どうしましょう。好きな人は好きです。きっと。
 

『ハサミ男』
(殊能将之)

《内容紹介》
 連続美少女殺人事件。死体ののどに、突き立てられたハサミ。その残虐性から、『ハサミ男』と名づけられたシリアル・キラーが、自分の犯行を真似た第三の殺人の真犯人を探すはめに……。殺人願望と自殺願望という狂気の狭間から、冷徹な目で、人の心の闇を抉るハサミ男。端麗なる謎!ミステリ界に妖しい涼風が!
 
《一口感想》
 来た来た来た来たぁ!思わずガッツポーズしたくなる快作。これがあるから、メフィスト賞はやめられません。さまざまな所で、話題となったので、読んでる人も多いと思いますが、読んでない人は、一度目は普通に。ニ度目以降は『おぉ!』『なるほどぉ!』と感心しながら読んで下さい。『メフィスト賞』の素晴らしさがよくわかる作品です。うれしいよぅ。
 

『UNKNOWN』
(古処誠二)
《内容紹介》
 侵入不可能なはずの部屋の中になぜか盗聴器が仕掛けられた。密室の謎に挑むのは防諜のエキスパート・防衛部調査班の朝香二尉。犯人の残した微かな痕跡から、朝香は事件の全容を描き出す。完璧にはり巡らされた伏線!重厚なテーマ性!リアリティ溢れる描写力!!熱く、そして端正な本格ミステリが登場した!!
 
《一口感想》
 こういう『本格』なら大歓迎です。『自衛隊基地』という『密室』で起こる盗聴器発見事件とその解決自体も面白いですが、それ以上に、自衛隊内部の様々な状況をすごくリアルに描いてます。作品だけじゃなく、作家丸ごと推したいです。
 テーマの重さの割に、ガンガン読み進められるため、小説を読み慣れている人には、ちょっと物足りないと感じるかもしれませんが、私としては、これ位でちょうどいいかと。
 

『真っ暗な夜明け』
(氷川透)

《内容紹介》
 推理小説家志望の氷川透は久々にバンド仲間と再開した。が、散会後に外で別れたはずのリーダーが地下鉄の駅構内で撲殺された。現場/人の出入り無しの閉鎖空間。容疑者/メンバー全員。新展開/仲間の自殺!?非情の論理がうなりをあげ華麗なひねり技が立て続けに炸裂する。
 
《一口感想》
 こういう『本格』は……さあどうしましょ。青春ノスタルジーものが正直あまり好きではないんですよね。古さが目立ちますし。使ってるものとか見てるところは新しいんですが、全体的印象が。『実際にあった話だ』や『読者への挑戦』と言うはったりも、なんかね。微妙です。
 

『ウェディング・ドレス』
(黒田研二)

《内容紹介》
 純愛か裏切りか。結婚式当日の凌辱から、私とユウ君の物語が始まった。そして《13番目の生け贄》という凄絶なAV作品に関わる猟奇殺人。ユウ君と再会したとき、不可解なジグソーパズルは完成した!全編に謎と伏線を鏤めた新本格ミステリの快作、驚嘆の魔術師(トリックメーカー)黒田研二の手で、メフィスト賞に誕生!
 
《一口感想》
 この作品も『メフィスト賞』の特徴である、『殺人事件よりも言いたい事がある』を備えています。が、この作品が言いたい事は『トリック』の一言に尽きます。
 舞台設定から登場人物まで、全てをトリックの為に使っています。特に、物理トリックに関しては、はっきりいって、仰け反りました。全てを費やすのも分かるくらいの、驚嘆のトリック。これは見物です。
 にしても、大森望の解説は的を射てるなぁ。
『キャラ立ちなし、蘊蓄なし、しゃれた会話や気の効いたジョークもなし』には爆笑。
 

『火蛾』
(古泉迦十)

《内容紹介》
 十二世紀の中東。聖者たちの伝記録編纂志す作家・ファリードは、取材のため、アリーと名乗る男を訪ねる。男が語ったのは、姿を顕わさぬ導師と四人の修行者たちだけが住まう山の、閉ざされた穹廬の中で起きた殺人だった。未だかつて目にした事のない鮮麗な本格世界が展開される。
 
《一口感想》
 不思議な作品ですなぁ。面白かった事は面白かったんです。えぇ。ただ、ミステリ以外の部分が強くて。イスラム世界だとか、信仰だとか、神だとか。こっちを書きたかったんでしょうなぁ。作者の『これが書きたい』にまた飲み込まれてしまいました。ちゃんとイスラム世界とか分かってる人は、どう思うのか、ちょっと気になります。
 

『日曜日の沈黙』
(石崎幸二)

《内容紹介》
 『ミステリィの館』へようこそ。もともと当ホテルは、密室で死んだ作家・来木来人の館。これから行われるイベントでは、彼が遺したという「お金では買えない究極のトリック」を探っていただきます。まずは趣向をこらした連続殺人劇をどうぞ。そして興奮の推理合戦、メフィスト賞ならではの醍醐味を御堪能下さい。
 
《一口感想》
 「探っていただきます」といって本当に探ろうとする人が『メフィスト賞』受賞作というものを分かってる人にいるとは思えないので、それはいいとして。
 全体的な軽さとメフィスト賞的偏執さがいい感じに同居しております。ちょっと内輪受けの匂いがするけど、実はそう言うの嫌いじゃないんで。変にがちがちなやつよりはね。にしても、みんな頭いいなぁ。

 

『Smoke,Soil or Sacrifices
 (煙か土か食い物)』
(舞城 王太郎)

《内容紹介》
アメリカ/サンディエゴ/俺の働くERに凶報が届く。
連続主婦殴打生き埋め事件。被害者は俺のおふくろ。
ヘイヘイヘイ、復讐は俺に任せろマザファッカー!
 
腕利きの救命外科医、奈津川四郎が故郷・福井の地に降り立った瞬間、暴力の神話が渦巻く凄絶な血族物語が幕を開ける。
前人未到のミステリーノワールを圧倒的文圧で描ききった新世紀初のメフィスト賞/第19回受賞作。
「密室?暗号?名探偵?くだらん、くたばれ!」
 
《一口感想》
 ファーストショットから後頭部にガツンと来る衝撃。油断するとあっという間に飲み込まれます。ミステリ部分の甘さとかは、この際置いておきましょう。やってくれるね、メフィスト賞。作者も天啓のままに書いたんじゃないか、って言うぐらい、この作品は『力』を感じさせます。
 

『月長石の魔犬』
(秋月 涼介)

《内容紹介》
 右目に藍玉(アクアマリン)のような淡い水色、左目に紫水晶(アメジスト)のような濃い紫色の瞳を持つ石細工屋店主・風桜青紫(かざくら・せいし)と彼を慕う女子大生・鴇冬静流(ときとう・しずる)。先生に殺されたいと願う17歳の霧嶋悠璃(きりしま・ゆうり)。境界線をさまよう人々と、頭部を切断され犬の首を縫い付けられた屍体。異常と正常。欲望と退屈。絶望と救い。根源を射つメフィスト賞受賞作!
 
《一口感想》
 なぁんかなぁ。大事な事をどっかに置いたまま、時がなだらかに流れていくかんじ。ちょっといらっとしてしまう。
 つうか、事件が重いんだか軽いんだかわかんないんですよね。もっと地に足をつけてほしかった。青紫さんは、以外と底が浅そうだし、警視さんはお莫迦だしぃ。
 あと、『メフィスト』の評にもありましたけど、主要人物全員がペンネームみたいな、ネーミングセンスはちょっとなぁ。

 

『フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人
(佐藤 友哉)

《内容紹介》
      妹が死んだ。自殺だった。私は病気。でも誰にも相談できない。
    と僕のイカれた家族は云うが。絶対に云えないよ。
   そして現れた男。手にはビデオ。七十七人の少女を屠った
       内容は妹のレイプ中継。連続殺人犯、突き刺しジャック。
    渡されたのはレイプ魔どもの 彼が少女を殺す時…
    愛娘どもの克明すぎる行動表。彼の視覚が私の視覚に接続するの。
   こうされちゃあ、する事は一つ。怖いよ。もう駄目。しかも彼は、
         これが自然な思考だね。私の存在を知っている。
そして僕は、少女達の捕獲を開始した。そして私は、彼に立ち向かってしまった。
          その果てに……、その向こう側に、

         こんな馬鹿げた世界が
       用意されているなんて知りもせず。

《一口感想》
 冷酷無比な不幸の手紙、妹萌え風味。
苦い味が口の中に広がるような。心に何かが沈殿していくような。
逃げ道をふさぐような。逃げるしかないような。
あまりに真っ当なような。あまりに卑怯なような。
評価したい人がしてください。批判は別にありません。

 ただ、全員が壊れていると、全員がまともに見えてしまうのは、
失敗かも。いや、全員まともなのかもね。

 あと、妹の可愛さがピンとこなかったんですけど。
私に『妹属性』がないだけなんでしょうか。
もっとしつこく、妹の可愛さをアピールしてもいいのでは?

 にしても、カバーの解説二人は何だ?法月綸太郎のようにはしゃげる
作品だとはとても思えない。大塚英志は壊れている。
『サイコ』途中で読むの止めちゃったけど、今、大塚英志って
こんな事になってたんだ。そのうち本物の雨宮一彦と対談するぞ。

 

『DOOMSDAY−審判の夜−
(津村 巧)

《内容紹介》
 ……よ、水兵。敵が目の前にいるぞ!さあ、どうする?
 ……殺して、殺して、殺しまくります!
監獄から出所したばかりの元SEAL(海軍特殊部隊)隊員
コウイチ=ハヤシ。彼が新しく住み着いた北米の田舎町に、
突如E.T.が出現。全編殺戮、剥き出しのルサンチマンが
踊るメフィスト賞受賞作!新本格SF誕生の狼煙!
 
《一口感想》
 典型的な、理屈度外視、人ばったばった死に小説。
 あまりにリアリティがないものに、
リアリティつけるためにその取材力を使ってる、
ということのようです。
 別に読まなきゃ良かったとかそういう事もないけど、
うーん、普通。
  

『クビキリサイクル
 青色サヴァンと戯言遣い
(西尾 維新)

《内容紹介》
絶海の孤島に隠れ棲む財閥令嬢が
“科学・絵画・料理・占術・工学”
 五人の天才女性を招待した瞬間、
“孤島×密室×首なし死体”の連鎖がスタートする!
 工学の天才美少女、「青色サヴァン」こと玖渚友(♀)と
 その冴えない友人、「戯言遣い」いーちゃん(♂)は、
「天才」の凶行を“証明終了(QED)”できるのか?
 新青春エンタの傑作、ここに誕生!
 第23回メフィスト賞受賞作。 
 
《一口感想》
 若い作者、『キャラもの?』と思わせる絵、清涼院の解説。
 不安な要素一杯ですが、安心してください。面白いです。
 大絶賛、とまでは行きませんが、決して、若さに任せて
 突っ走るだけじゃないところが良しです。
 あとは、戯言のセンスがピカいち。ニヤリとさせてくれます。
 もう一つ言うと、タイトルの意味を深く考えない方が
 楽しめます。ま、戯言ですけど。
 

『『クロック城』殺人事件』
(北山 猛邦)

《内容紹介》
 現在、過去、未来。別々の時を刻む三つの大時計を戴
 くクロック城。そこは人面樹が繁り、地下室に無数の
 顔が浮き出す異形の館。謎の鐘が鳴り響いた夜、礼拝
 質に首なし死体、眠り続ける美女の部屋には二つの生
 首が。行き来不能な状況でいかに惨劇は起こったか?
 世界の終焉を鮮烈に彩る衝撃のメフィスト賞受賞作!!
 
《一口感想》
 『世界の終焉』がいまいち伝わってこなかったです。
 密室トリックも、袋とじにするほど絶賛される様な
 ものではないかと……
  ただ、もう一つの謎の回答には拍手。
 まあ、総合すると、可もなく不可もなくですかね。
    

『それでも、警官は微笑う』
(日明 恩)

《内容紹介》
警察小説は新世紀をむかえた!

池袋署の所轄で連続発生する密造拳銃事件。“鬼畜”と
あだ名される武本刑事と警視庁一のお坊っちゃま刑事潮崎の
コンビが事件を追う。その裏には巨大組織の影が……
  
《一口感想》
 あぁ、だめだったぁ。高里椎奈がショタならば、
こちらは正統派やおい。それを置いといたとしても、
文章が平坦なのに、わかりづらかったです。あぁ、もう。

     

『死都日本』
(石黒 耀)

《内容紹介》
  弩級クライシスノベル<第26回メフィスト賞受賞作>

       本書を読まずして、我らが大地に無自覚に佇むことなかれ…。
       東京大学理学部松井孝典教授大絶賛!

       我々は今、地球システムのなかに新たな構成要素として、
人間圏を作って生きている。そんな我々の1年を地球時間に
換算すれば、1万〜10万年に相当する。 
 では、そんな時空スケールで日本列島の人間圏を考えたら、
我々は何処へ行くのか? それが本書のテーマだ。
『日本沈没』以来久々の、日本の作家にしか書けない
クライシスノベルの登場である。
――(東京大学理学部 地球惑星物理学教室 教授 松井孝典)

《一口感想》
 日本を壊滅させんとする、壮絶な噴火と火砕流、土石流の恐怖。
専門的用語の羅列とかなりのページ数を持ちながら、
見事に飽きさせないスピード感あふれた作りに感心。
 ちょくちょくでてくる神話との符号は黒木=本人の説
なのでしょう、よくできております。
 ラストまで行くと《どうもどこかで騙された気になるけど》、
かなり楽しめました。自分がここにいることが大いに怖くなるね。

 ただ、タイトルは『破局噴火』のままで良かったんじゃ
ないかなぁ。

 

『フレームアウト』
(生垣真太郎)

《内容紹介》
1979年、NY−。
映画編集者デイヴィッドの
作業スペースに紛れ込んでいた
邪悪で完璧に美しい一本のフィルム。
あれは、本物の“スナッフ”!?
主演女優アンジェリカと、
失踪したもう一人のアンジェリカの行方を
追うデイヴィッドが除いた暗黒の淵とは?
メフィスト賞史上最高級の大型新人デビュー!

《一口感想》
 申し訳ない事に、思ったよりハマれませんでした。
すごくきちっとした、端正な作品、という事は
わかるんですが、『メフィスト賞』にしては
上品すぎるかな、って感じだろうか。

  

『蜜の森の凍える女神』
(関田 涙)

《内容紹介》
 大学生らが集い吹雪の山荘で行った''探偵ゲーム''。
余興のつもりが、翌朝現実の刺殺死体が発見されて
自体は一変した。現場の不可解な錠の開閉は何を意味
するのか。五十年前に起きた探偵小説家の死惨殺事件との
暗号は。ヴィッキーという仇名を持つチャーミングな
女子高生が圧倒的活躍を見せるメフィスト賞受賞作!

《一口感想》
 至極真っ当でオーソドックス。かつ、今までとひと味違う
『ヴィッキーからの挑戦状』など、今までの本格や新本格作品を
踏まえた上で、正当に少し進化させたような作品。
 正々堂々、鼻につくところもなく、作者もろとも好感が持てました。

追記・言葉遣いで、ちょっと気になったことがあったので、
   メールを送ってみたら、なんと!その日のうちに
   明確な回答の返信メールが届きました。
   なんていい人だろう(感謝)

   

『空を見上げる古い歌を口ずさむ
PULP-TOWN FICTION
(小路幸也)

《内容紹介》
 「いつかお前の周りで誰かが〈のっぺらぼう〉を
  見るようになったら呼んでほしい」。
 そう言って姿を消した凌一の兄・恭一。

 二十数年後。凌一の小5の息子・彰がのっぺらぼうを見るようになって、
 2人は約束通り再会する。そして明らかになる〈のっぺらぼう〉の秘密。 
      この世にはどうしようもなく殺しや悪に走る〈違い者〉と、
 彼らを始末する〈解す者〉がいた。
 そしてのっぺらぼうを見る〈稀人〉は、〈解す者〉を助け、
〈違い者〉を見分ける役目を担っていた……。 

《一口感想》
 実際に作者が過ごした街、旭川の『パルプ町』を舞台に、
 いくらかのミステリといくらかのファンタジー、
 そしていくらかのノスタルジーを、心地よく盛り込んだ良作。
 たぶん、今後『メフィスト賞の良心』と呼ばれることでしょう。

 謎解き(って言っていいのかな?)が後半で一気に行われた感があり、
 まだ解決してない謎もあるけれど、これは続編があるから仕方ないのか。
 できるだけ早く続編も読みます。

 

『極限推理コロシアム』
(矢野龍王)

《内容紹介》
  二つの館に強制的に集められた七人の「プレイヤー」
 たちに「主催者」は命じる──「今から起きる殺人事
 件の犯人を当てよ」──もちろん、被害者もプレイヤ
 ーの中から選ばれる。二つの館で起きる事件を、互い
 にもう一つの館より早く、解決しなければならないの
 だ。不正解の代償は「死」!過酷きわまるデス・ゲー
 ムの幕が開く! 究極のサバイバル・サスペンス!

《一口感想》
 うーん、一言で言うと『ちょっと物足りない』かな。
 メフィスト賞受賞作は1時間で読めちゃいけないですよ。
 大オチも、なんとなくだけど読めた。
『あの人』とか『あの人』は、もっとひっくり返してくれたぞ。
 にしても、この『薄さ』は、あまりにドラマ向き。
 先にドラマありきじゃなかろうな。どうせ東京では見られない(はずだ)し。

 

『冷たい校舎の時は止まる』
(辻村深月)

《内容紹介》
  ある雪の日、学校に閉じこめられた男女8人の高校
 生。どうしても開かない玄関の扉、そして他には誰も
 登校してこない、時が止まった校舎。不可解な現象の
 謎を追ううちに彼らは2ヶ月前に起きた学園祭での
 自殺事件を思い出す。しかし8人は死んだ級友の名前
 が思い出せない。死んだのは誰!? 誰もが過ぎる青
 春という一時代をリアルに切なく書いた長編傑作!

《一口感想》
(その一・上巻を読んで)
 作品&作品以外の部分で、若干気になるところ
(三分冊とか、モデルが解説とか、登場人物と作者が同じ名前とか、
 解説の『リアルに』の部分が引っかかったりとか)はありますが、
 とりあえず、中巻を買う気には、なってます。
 最初はキャラクタとその背景を紹介、という感じ。
 さくさく読めます。まあ、これからですね。

(その二・中巻を読んで)
 誰もが犯人の可能性が出るよう、ミスリーディングを誘うのに必死、という感じ。
 ちょっとトーンダウン。

(その三・下巻を読んで)
 あー、んー。決して悪い作品ではないけど、諸手をあげて賛成って訳には
 いかないかなぁ。
 いくらキャラクターの背景をこれでもかと書き込まれても、『読者への挑戦』が
 ある段階で、それは『犯人当ての為の情報開示』でしかないわけで、
 それで感動しろって言われても。

 で、『意外な犯人』や『それ以外のサプライズ』も、ちゃんと用意してある
 訳なんだけど、なんか、『麻雀で言うとローカルルールで上がられた』感じ。
 アンフェアかって言うと、そうではないんだけど、この世界のルール提示の段階で、
 その部分をちゃんと明かしたかなぁ?っていう。

 まあ、平均よりは上、ということで。でも、『平均より上』レベルでは
 3分冊の奇策が裏目に出る気がする。まあ、何だかんだで最後まで買ったんだから、
 成功なのか。

 

『孤虫症』
(真梨幸子)

《内容紹介》
  電機メーカーに務める夫、小学校六年生の娘一人の3人家族で、
 私鉄沿線の新築マンション住まい。端から見れば幸せに溢れた家庭だった。
  ところが、妻の麻美は夫のあずかり知らぬところで、年下の男三人との
 逢瀬を重ねていた。妹が借りていた築二十五年の古いアパートの部屋を借り受け、
 ここを隠れ家として三人の“恋人”たちと体を重ねていたのである。

  自分の欲望に身を任せながら生活していた麻美はある日、自分の体に
 異変が起きたことを知る。そしてまた、麻美のアパートに訪れた中年女性に
「息子が死んだのは、あんたのせいだ」と罵られ、“恋人”の一人が
 急死したことを知る。
  驚いた麻美は、すぐさまアパートを引き払うが、異変はそれだけでは
 終わらなかった……

《一口感想》
 結局、いろんな意味でドロドロやなぁ。
 心理サスペンスなのかと思ったら……ねぇ。
 うーん、女性が読んだ方が楽しめるんじゃないですか?
(ひどい逃げ方)。

 

『黙過の代償』
(森山赳志)

《内容紹介》
 大学生の秋月昌平は墓参りに行った霊園で、瀕死の
 男に遭遇。その男は片言の日本語で「コレをダイトウ
 リョウに渡してほしい」と言い残して昌平に鍵を託す。
 日本と韓国の間に渦巻く陰謀に巻き込まれた昌平の身
 にふりかかる危機! 本作で第33回メフィスト賞を
 受賞、韓国語翻訳版も同時刊行した新進気鋭の作家が
 おくる国際派ハードボイルドサスペンス決定版。

《一口感想》
 うーん、この手のジャンルを丸飲みできる人ならともかく、
 ハードボイルドがさほどでもない私には、正直キツかったです。
 展開も予定調和的で、感じられず、息をもつかせぬとか
 じゃなかったので、読んでて、ただ疲れた。
 だったら『日韓論』という思想的な所で
 攻めてくるのかと思ったら、その辺も正直それほどでもないし。
 どっちにしろ、スリリングさが、なかったなぁ。

 

『少女は踊る暗い腹の中踊る』
(岡崎隼人)

《内容紹介》
 連続乳児誘拐事件に震撼する岡山市内で、コインラン
 ドリー管理の仕事をしながら、無為な日々を消化す
 る北原結平・19歳。自らが犯した過去の“罪”に囚わ
 れ続け、後悔にまみれていた。だが、深夜のコンビニ
 で出会ったセーラー服の少女・蒼以によって、孤独
 な日常が一変する。正体不明のシリアルキラー“ウサ
 ガワ”の出現。過去の出来事のフラッシュバック。暴走
 する感情。溢れ出す抑圧。一連の事件の奥に潜む更なる闇。
 結平も蒼以もあなたも、もう後戻りはできない!!

《一口感想》
 
 一言で言うなら、『舞城チルドレン』。
 若さに任せた勢いが感じられて『頑張ってるな』とは思うが、
 舞城作品の熱量には届いていない。
 既知外と謎の少女が出てきて、残酷な殺人がバンバン起これば
 小説は盛り上がる訳じゃないぞ、と言いたい。
 ただ、つかみの『主人公が陥っている閉塞感』の表現と、
 ラストを『みんな死んで終了』にしなかったのは、
 若干好感が持てる。次作で見極めたい。


『天帝のはしたなき果実』
(古野まほろ)

《内容紹介》
 90年代の日本帝国。
 名門剄草館高校で連続する惨劇。
 子爵令嬢修野まりに託された数列の暗号を解いた
 奥平が斬首死体となって発見される。
 報復と解明を誓う古野まほらら
 吹奏楽部の面子のまえで更なる犠牲者が!
 本格と幻想とSFが奇跡のように融合した青春ミステリ。

《一口感想》
 
 現在、休刊中の『メフィスト』ですが、
 仮にこの作品で『メフィスト賞』が終わるとしても、
(多分終わらないと思いますが。4月に『メフィスト』出るし。)
 まあ、納得がいくかな、という作品でした。

 メフィスト賞募集の際、編集者サイドは
「1つの作品に全てを賭けて書いてこい」的な事を
 良く言ってますが、そういう意味では
『メフィスト賞』にふさわしいと思います。
 作者が今やれる全てを詰め込んだ、と
 ハッキリ伝わった感がありました。

 ただ、それと『この作品が傑作だったか』とは
 別ジャンルの話ですが。
 まあぁぁぁ、これみよがしだったなぁ、色々と。

 正直最初の何ページか読んだところでの感想は
「私はこれを最後まで読まなくてはいけないのか…?」
 だったんですが、何かだんだん慣れてくると読めるもんで。
 青春小説としても、途中で一箇所ぐっと来たシーンがあったし。

 結局、『本格と幻想とSF』は、ちゃんと入ってたんですが、
『奇跡の融合』はしてなかったかなぁ……
 確かに、材料自体は、「一つたりとも腐ってはない」
 とは思うんですがねぇ。

 まあ、『匣の中の失楽』を目指して『只のびっくり匣』に
 しちゃう人もいるし、『虚無への供物』を目指して、
 ここまでの物を作ったのなら努力賞じゃないですか?
 多分、小説家が一番いらない賞だろうけど。

 
 

『ウルチモ トルッコ
 犯人はあなただ!
(深水黎一郎)

《内容紹介》
  新聞に連載小説を発表している私のもとに一通の手
 紙が届く。その手紙には、ミステリー界最後の不可能
 トリックを用いた〈意外な犯人〉モノの小説案を高値
 で買ってくれと書かれていた。差出人が「命と引き換
 えにしても惜しくない」と切実に訴える、究極のトリ
 ックとは? 読後に驚愕必死のメフィスト賞受賞作!

《一口感想》
 
 正直、この作品は
「面白いトリックを考える人がいるなぁ」止まりか。

 1つは、ズバリ、トリック以外の部分に
 あまり魅力が感じられない事。
『作品の全てをトリックに奉仕する』作風では
 メフィスト賞の先達に既に黒田研二がいる。
 彼より後の受賞である以上、
 いくら『《読者が犯人》のトリックを提示する』のが目的でも、
 少なくともそこは越えないといけないのでは、と思う。
 構成の破綻とか、文章が読みづらい的な問題とかは ないので、
 すいすい読めるのは良なんですが。

 もう一つはネタバレになるので詳しくは言えないが、
『犯人は読者』であって『犯人はあなた』では無い事。
 少なくとも『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』を
 読んだ私は、犯人ではない。これではちょっと物足りない。
 トリックの大元を生かして、
『ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ!』を読んだ私を
 犯人にする事は可能だったと思うので、もったいない感がある。
 もうちょっと欲しかったなぁ。
 
 ただ、『ウルチモ・トルッコ2』が出たら買ってしまうかも。
 もしかして化けるんじゃないか、って思わせる可能性はある。
 私は、一作目でフルパワー出してこその
『メフィスト賞』だと思うので、ちょっと癪なんですが。

 
 

『パラダイス・クローズド』
(汀 こるもの)

《内容紹介》
 周囲の者が次々と殺人や事故に巻き込まれる
 死神体質の魚マニア・美樹と、それらを処理する
 探偵体質の弟・真樹。彼ら美少年双子はミステリ
 作家が所有する孤島の館へと向かうが、案の定、
 館主密室殺人に遭遇。犯人は館に集った癖のあ
 るミステリ作家達の中にいるのか、それとも双子
 の……? 最強にして最凶の美少年双子ミステリ。

《一口感想》
 一言で言えば
『ハッタリの効かせ方が上手い』。
 読了してしばらく経つと、
 彼らがシリアスにやってた事が滑稽に感じるんですが、
 読んでる間はそう思わなかった。

『本格を打ち倒そうとする』というより、
『本格相手にゲリラ戦を仕掛けている』印象。
 一つ一つの武器は大きくなくとも、
 それを大きく見せる技を持ち、
 重ねる事でより効果を増すトラップを使っている。
 そして、相手の土俵には片足しか乗らない。

 少しずつ『本格』が崩されていき、
 最後の最後でついに『本格の旗』を持ってかれて、
 燃やされるのかなと思ったら、掲げられた感じ。
 メフィスト賞だもん、『本格への愛』なんて、
 歪んでいてなんぼだよね。

 分かりづらい言い回しですが、
 総合すると、面白かったです。
 文章のノリも大丈夫だったなぁ。
 最近、ライトノベル慣れしてたからかなぁ。

 
 

『堀割で笑う女 浪人左門あやかし指南
(輪渡 颯介)

《内容紹介》
  城下の掘割で若い女の幽霊を見たという普請方の男が、
 まもなく病で死んだ。 女の姿を見た者は必ず死ぬという
 噂が囁かれる折、お家騒動が持ち上がり家老が闇討ちさ
 れた。怖がりで純情な甚十郎と酒と怪談を愛する浪人。
 平松左門が、闇に溶け込んだ真実を暴く痛快時代活劇!

《一口感想》
 ……すいません、やっぱり時代物苦手だわ。
 視点が変わる度に「こいつ誰だっけ?」って思っちゃう。

 そんな私が言うのもなんだけど、
 時代物としての分厚さが足りないと言うか、
 時代物フォーマットの中で、
 ミステリとして利用できる部分だけ拾ったというか、
 そんな感じがしました。

 ただ、怪談の出来は良かったと思う。
 つかみ部分が怪談だったから、
 これなら楽しく読めるかなと思ったんだけどなぁ。
 私には合わなかった、という逃げで。

 

『マネーロード』
(二郎遊真)

《内容紹介》
 
 4年もの間ホテルにひきこもる、他者との肉体的接触を極度に嫌う、
 相対する人間の“金に対する想い”が様々な幻覚となって現れる
 ――これらはネット上で「金の声を聞く男」と呼ばれ、
 株式市場の値動きを予見し250億円超の資産を築いた
「ヒィ」の「症状」である。

 その彼のもとに、1枚の旧札が送られてきた。
 それこそが、捨て子だった「ヒィ」の本名が記された
 伊藤博文の千円札、失くしてしまった唯一の大事な宝物だった……。
 送り主は、投資ファンドの代表である沢谷という男。
 かつて「ヒィ」との仕手戦で屈辱的な大敗を喫していた。
 描いた絵図を台無しにした仇敵「ヒィ」に対して、
 巻き返しを図る沢谷は何を!? 

《一口感想》
 良く言えば読みやすく、悪く言えば細い。
 特にキャラクター造形に関しては、
 その設定使えば、もっと色々盛り込めるだろうに、
 っていう歯がゆさを感じた。

 あと、クライマックスがしっくり来ない。
 序盤から中盤は面白かったんだけどなぁ。
 あっさりまとめすぎというか。

 作者は、自分の力量を見極める術に長けてるんだろうなぁ。
 メフィスト賞じゃなきゃ、もうちょっと褒めたかも。

 
 

『無貌伝 〜双児の子ら〜
(望月 守宮)

《内容紹介》
 人と"ヒトデナシ"と呼ばれる怪異が共存していた世界ーー。
 名探偵・秋津は、怪盗・無貌によって「顔」を奪われ、
 失意の日々を送っていた。
 しかし彼のもとに、親に捨てられた孤高の少年・望が
 突然あらわれ、隠し持った銃を突きつける!
 そんな二人の前に、無貌から次の犯行予告が!!
 狙われたのは鉄道王一族の一人娘、榎木芹ーー。
 次々とまき起こる怪異と連続殺人事件!
 "ヒトデナシ"に翻弄される望たちが目にした真実とは!?

《一口感想》
 端的に言うなら面白かったです。
 剛速球じゃないけど、
 要所要所を押さえたピッチング、って感じ。

『古き良き時代の探偵譚』を思わせる
『名家』や『双子』のガジェットに
『無貌』や『ヒトデナシ』という
『一ひねりした設定』を上手く絡ませて、
 さらには『名探偵の苦悩』まで盛り込んできました。
 それがどれも的を外してないので、
 提示された物を素直に受け入れられる感じ。

 ただ、『要所要所』以外がちょっと弱いかな、って
 気もしましたが

(ある一つの設定が明かされた瞬間に、
 「あぁ、これは鉄板で謎に関わってくるぞ」
 って、わかってしまう感じとか。)

 エピローグが気に入ったので、
 終わりよければ全て良し。次回作も期待。

 

『虫とりのうた』
(赤星 香一郎)

《内容紹介》
 小説家を目指す赤井は、ある日河川敷で必死に助けを求める少女と出会う。
 知らない男に追いかけられていると訴える少女。
 だが、男は少女の父親だと言い張る。助けようとする赤井だったが、
 居合わせた大人たちに少女を男に返せと言い含められ、
 その場をやり過ごしてしまう。そして後日、少女が男に殺害された
 ことを知って罪の意識に苛まれ、彼女の葬儀に参列。
 そこで「虫取りの歌という」奇妙な歌にまつわる
 都市伝説を耳にした……。

《一口感想》
 は、読了次第、追加します。

 

『プールの底に眠る』
(白河 三兎)

《内容紹介》
 夏の終わり、僕は裏山で「セミ」に出逢った。
 木の上で首にロープを巻き、自殺しようとしていた少女。
 彼女は、それでもとても美しかった。
 陽炎のように儚い1週間の中で、僕は彼女に恋をする。
 あれから13年……。
 僕は彼女の思い出をたどっている。
 「殺人」の罪を背負い、留置場の中で――。
 誰もが持つ、切なくも愛おしい記憶が鮮やかに蘇る。
 第42回メフィスト賞受賞作。

《一口感想》
 読み終わったら、
 帯に書いてある
 辻村深月の推薦コメント
 
「いつまでも読んでいたかった」
 
 の意味が、
 良くも悪くも分かってしまう。
 評価しづらいなぁ。

 ……迷いに迷ったけど、
 私は褒めない側に入れる。
 最後まで読ませるが、
 読み終わったらしっくり来ない、
 という感じ。
 
 世界をひっくり返すなら
 ドーンとやってくれ、
 トランプ一枚一枚めくるような
 ひっくり返し方はするな、
 と言う気もするんだが、
 この作品でそれをやると、
 繊細な世界が崩れちゃうのもわかる。
 
 今までも、
空を見上げる古い歌を口ずさむ
 みたいな良作はあったから、
『メフィスト賞に草食系は合わない!』
 とまで言う気はないが……
 
 ただ、この作品が褒められる世界は
 間違いなくある。
 だから、困るんだよなぁ。

 

『キョウカンカク』
(天祢 涼)

《内容紹介》
 女性を殺し、焼却する猟奇犯罪が続く地方都市――。
 幼なじみを殺され、跡追い自殺を図った
 高校生・甘祢山紫郎は、“共感覚”を持つ
 美少女探偵・音宮美夜と出会い、ともに捜査に乗り出した。
 少女の特殊能力で、殺人鬼を追い詰められるのか?
 2人を待ち受ける“凶感覚”の世界とは?
 第43回メフィスト賞受賞作。
 
《一口感想》
 は、読了次第、追加します。
 

『琅邪の鬼』
(丸山 天寿)

《内容紹介》
 始皇帝時代の中国、商家の家宝盗難をきっかけに、
 港町・琅邪で奇妙な事件が続発する!
「甦って走る死体」、「美少女の怪死」、
「連続する不可解な自死」、「一夜にして消失する屋敷」、
「棺の中で成長する美女」
 ―琅邪に跳梁する正体不明の鬼たち!
 治安を取り戻すべく、伝説の方士・徐福の弟子たちが、
 医術、易占、剣術、推理…各々の能力を駆使して真相に迫る。
 多彩な登場人物、手に汗握る攻防、緻密な謎解き、そして情報力!
 面白さ極めた、圧倒的興奮の痛快歴史ミステリー!
 
《一口感想》
 は、読了次第、追加します。
 

『図書館の魔女』
(高田 大介)

《内容紹介》&《一口感想》
 は、発売次第、追加します。
 

『恋都の狐さん』
(北 夏輝)

《内容紹介》
 豆を手にすれば恋愛成就の噂がある、東大寺二月堂での節分の豆まき。
 奈良の女子大に通う「私」は、"20年間彼氏なし"生活からの脱却を
 願って、その豆まきに参加した。大混乱の中、豆や鈴を手にするが、
 鈴を落としてしまう。拾ったのは、狐のお面を被った着流し姿の奇妙
 な青年。それが「狐さん」との生涯忘れえない、出逢いだったーー。
 
《一口感想》
 「そっかぁ、メフィスト賞は、今そういう事になってんのかぁ。」
 これが、読み終えての率直な感想。
 私が若い頃なら、
「こんなの『メフィスト賞』じゃねぇよ!」って
 絶対言ってる。でも、これが今のメフィスト賞なんだよね。
 私が物足りなさを感じた事など、どうでもいい。
 
 真ん中ぐらいまで読んで、「何も起きてねぇ!」とか
 思ったけど、そういう事じゃないのです。
 その後、何かは起きましたし。

 作品としては、読みやすく爽やかで、
 クスっとさせるところもあり、という感じ。
 変なクセがないので、楽に読めると思います。
 
 楽に読めるって事は、今やそれだけで価値。
 過去のメフィスト賞に、楽に読めない作品が
 どれだけある事か。

 
……そして、『メフィスト賞』は、
何処へ向かうのか……


 
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